ヘイターというビジネス
情報発信ビジネスの民主化
インターネットが情報検索や情報発信の手段を変えたことに疑いの余地はありませんが、またインターネットが情報によって稼ぐ手段を変えたことも確かでしょう。ブログなどを利用すれば今や誰でも情報を簡単に発信できますし、その上でGoogle AdSenseや各種のアフィリエイトプログラムを活用することで簡単に稼ぐことができます。
たとえばマスメディアの時代ではテレビや雑誌で「社畜と家畜の共通点」というような他愛のない与太話を披露する機会があったとして、その結果、仕事を干されれば終わりです。しかしネットメディアの時代では書き手のモラル次第で飽きるまでそのような与太話を続けることができますし、PVがついてこようものなら、それをビジネスとして継続することさえできます。
もちろん手段があったところで、実際に金を稼ぐというのはなんにしても簡単なことではありません。それでもブログとアフィリエイトの組み合わせは時として想像以上に強力なビジネスとなることがあり、たとえば痛いニュースのようなヘイトスピーチが日本を代表するブログビジネスとして君臨していることを我々は常に肝に命じておく必要があります。
また、最近ではNAVERまとめのように情報発信ビジネスの敷居をさらに下げる仕組みも登場しており、ブログが情報発信そのもの民主化であったなら、今や情報発信がビジネスとして民主化されていると言えるでしょう。
収益性のあるコンテンツとしてのデマ、炎上、ヘイトスピーチ
このような環境において、人はどのような情報を発信して稼ぐのでしょうか。もちろん冬の井戸のように深く静かな洞察に満ちた、中立でありながら刺激的、公正でありながら示唆的、時として抱腹絶倒、快刀乱麻のコンテンツが期待されるわけですが、実際に手っとり早くPVが稼げるコンテンツはデマや炎上、ヘイトスピーチであります。なぜならデマや炎上、ヘイトスピーチには洞察も中立性も、まともな言語的素養さえ不要だからです。
PV至上主義というのは、本文が悲惨な出来であったとしても要はクリックさえあればいいわけですから、むしろ本文が悲惨であればあるほど広告などへの誘導が速やかに行われる可能性もあるわけで、思わず目を剥くような釣りタイトルさえ思い浮かべば、あとは他人のツイートを切ったり貼ったり、あるいはブックマークが増えるような攻撃的な文章を加え、東に注目されるサービスや企業があればイチャモンをつけてフリーライドし、西に不用意な発言があれば親の仇とばかりに叩いて炎上を煽り、また適当なコンテンツが見つからない場合は自分の不遇を嘆き周囲はバカばかりと自らの身に火をつければいいのであります。
炎上がPVになり、金になるという事実を前に、自らを炎上させ続ければ良いと気付いたイケダハヤト氏は稀代のビジネスパーソンと言えるでしょう。
ヘイターというビジネス
突然話は変わりますが、筆者が愛するヒップホップの世界では、多くのリリックにおいて「成功した俺」と「文句ばっかりしているお前」という構図が設けられ、後者をヘイターと呼びます。なぜCDを買った筆者に対してラッパーが「お前はいつも口ばかり」というようなライムを聞かせるのか、時に理解に苦しむこともありますが、立身出世と下剋上の激しいヒップホップの世界では、成功者の影には数多くのヘイターがいることなのでしょう。
急いで本題に戻りますと、今のネットメディアにもこうしたヘイターが有象無象に存在し、おそろしいことに、それがビジネスとなっています。PVをカネに換金できる以上、どのような手段であってもPVを稼ごうとする人間がいることを忘れてはいけません。もちろん、そのような釣り記事、デマ記事、ヘイト記事、焼身記事はクリックしなければ良いのですが、おおよそ人の心というのは弱いものであり、自分の愛するものが「〜は終わった」などと書かれるとクリックしてしまうものです。
アーキテクチャによる解決
筆者はそろそろアーキテクチャによる解決が必要であろうと考えます。すなわち、はてなブックマークのような送客サービスは中立性を捨ててでも、釣り記事やデマ記事に対して、注目エントリに掲載しないなどのペナルティをとるべきでしょう。デマを拡散させる「まとめ主」のアカウントはすみやかに凍結すべきでしょう(余談ですが、デマや炎上の拡散に貢献し、対抗措置をとらないTogetterを筆者は今世紀で最悪のサービスと捉えております)。
また、大元の資金源となるアフィリエイトサービスにおいては、釣り記事を量産するメディアを審査し、時としてアカウントを停止させるような措置が求められるでしょう。あるいは良質なコンテンツを発掘する際に、ただブックマークが多いから、多くのTweetが紐づいているからというような、アルゴリズム依存の発想から脱却し、より個人の審美眼に依存した、いわば編集作業が求められるのかもしれません。
もちろん、これらは手間のかかる作業であり、簡単なことでありません。このような仕組みが作られたとしても、メールサービスがスパマーと戦い続けているように、ヘイターとの長く苦しい戦いが待ち構えている可能性があります。もしかすると結果として次代のインターネットは、ヘイターとは縁遠い、非言語的メディアが担っていくのかもしれません。
こうして考えると、一種のキュレーションサービスであるGunosyが、その検閲的行為において炎上しているというのは、実に皮肉なことです。筆者ははじめ、Gunosyのようなパーソナルなサービスが、なぜアルゴリズムの出来うんぬんについて批判されることがあるのか疑問でした。アルゴリズムに不満があるのであれば利用しなければ良いのです。しかし、こうした批判がNAVERまとめというPVがカネになるサービス上で展開されたことに、ビジネスとしてのヘイターの存在を感じずにはいられません。
(もちろん、世の中は広いですから、本当に新興サービスのアルゴリズムの出来不出来に対して憤りを感じる人がいたとしても不思議ではありませんし、PVがカネにならない状況においても、PVそのものをある種の戦闘力、生きがいの尺度として利用している人がいることも事実ではあります)
筆者はGunosyの熱心なユーザではありませんが、今回のいわれなき批判を受けて、むしろ編集行為の重要性に気付き、ヘイターの記事を拡散させることの恐ろしさが、サービスの向上に反映されればと期待しております。
気の効いた小見出しが見つからない
また精神論に回帰してしまいますが、たとえばハフィントン・ポストの日本版がローンチした数時間以内に「ハフィントン・ポストは失敗する」という挑発的な、かといって読んでみると特に中身のない、ただ赤子を棒で打つことでPVを集めることだけを目的としたような非紳士的行為がまかり通る、それでいて「始まったばかりの段階で成功や失敗を語ることがあまり意味がないことは分かっている。サイト開設準備は大変で、予定通りローンチしたスタッフの皆さんには敬意を評したい」などと逃げを打つことは忘れない、いっそ「Yahoo!ニュース個人に歯向かう新参は死ね」くらいのタイトルであったほうがプロレス的興味があったはずの、いずれにしても良心ともジャーナリスト的価値とも程遠い記事が、クリックを稼ぐというビジネスバリューを追及した結果として今日のインターネットに蔓延している恐ろしさを、より強く意識する必要があると思います。
あわせて蛇足ではありますが、Gunosyの騒動にかこつけて、例の不出来な公式発表を、特に頼まれてもいないのに改善しておりましたnanapi代表のけんすう氏におきましては、自身のデマ記事に対してもどうか同程度に良心的な声明を発表されることを願います。


