夢見るゲーム専用機:PlayStation Vitaレビュー

12月17日、ソニー・コンピュータエンタテインメントのPlayStation Vitaが世界に先駆け日本で発売された。私も無事に3G/WiFiモデルを入手したので、今回はこの携帯ゲーム機を題材に、ゲーム業界とソニーについて考えてみたい。(ネタバレ:ソフトは買ってません)

任天堂譲りの付加機能

Vitaは、ソニー初の携帯ゲーム機であったPlayStation Portable(PSP)の後継機にあたる。初代PSPは2004年12月に発売されており、進化の激しいデジタル業界において、7年ものあいだ最前線に立ち続けた、息の長い製品だった。

いま振り返れば、PSPはごくごく普通の携帯ゲーム機であった。つまり専用ディスクを使い、本体に備えつけられたコントローラーで、ゲームを遊ぶ。任天堂ゲームボーイの直系と言ってもいい。

その任天堂が、初代PSPとほぼ同時期に発売したニンテンドーDS(DS)と比較すると分かりやすい。DSはゲーム機がこれまで繰り返してきた画質競争に挑まず、タッチパネルやマイク、本体間の通信機能といった付加機能で、新しいゲームと、新しいゲームユーザを開拓することに挑んだ。その後も任天堂はDSi、3DSにおいて、カメラ、モーションセンサ、3Dディスプレイなど、新たな付加機能の取り込みを続けている。結果として「脳トレ」シリーズやトモダチコレクション、Nintendogs、レイトン教授シリーズなど、従来にない形のゲームが人気を集めたことを考えると、任天堂の挑戦は十分な成果を得たと言えるだろう。

こうした経緯を踏まえると、Vitaはさらに高画質となったPSPの後継機でありながら、近年の任天堂の取り組みも参照した製品と見なせる。なにしろVitaにはDSシリーズと同様、タッチスクリーンにカメラ、モーションセンサを備え、さらに背面タッチパッドまで搭載している。また、従来のWiFi通信機能だけでなく、3G通信やGPSに対応したモデルも用意されている。スマートフォンなどで流行りの位置情報ゲームにも目配りを効かせた格好である。

ビジネスモデルを脅かすライバル

こうした豊富な付加機能が実際のゲームでどれほど必要となるのかは分からない。しかし、ただ高性能なだけのゲーム機では、著しい勢いで性能を向上させているスマートフォンやタブレットに役割を奪われていくのは確実だ。ただでさえ、スマートフォンやタブレットでは安価なゲームアプリが多数配信されており、ゲーム業界が何十年と守ってきた、一本数千円のパッケージ販売ビジネスを破壊しつつある。これから何年もの未来がVitaに託されていることを思えば、付加機能がありすぎて困ることはない。

Vitaが今後どれほどの人気となるかは分からない。それは、キラーと呼ばれるような人気ソフトが登場するかにかかっている。DSとPSPを振り返れば、脳トレなどで大きな人気を集めて先行したDSは、そのあとのタイトルを揃えることに失敗した。累計販売台数は1億4000万台以上である。一方のPSPは出遅れたが、モンスターハンターポータブルというキラーを生み出し、一定の人気を得た。累計販売台数は7000万台以上だ。

しかし前述のとおり、今や携帯ゲーム市場は任天堂とソニーの争いではない。スマートフォンやタブレットの安価なゲームアプリ、あるいは基本無料のソーシャルゲーム、あるいはネットサービスそのものなどと、時間やお金を奪いあう関係にある。

ゲーム専用機どまりのデザイン

そうするとむしろ疑問なのは、なぜソニーはVitaにもっと他の、ゲーム以外の機能を加えなかったのかということである。景気が良いとは言えない今日、本体2万4900円、3G通信対応モデルで2万9980円というVitaの価格は、豊富な付加機能を鑑みても安価なものではない。しかし他のソニー製品と連携したり、ゲーム以外にも様々なアプリが利用できたり、あるいは音楽や映像といったマルチメディアコンテンツの視聴に利用できれば、もっとリーズナブルに感じられただろう。

大急ぎで補足するが、Vitaはインターネットブラウザ機能を備えている。音楽や映像の再生機能も備えている。PS3との連携機能もあり、特にPS3用のハードディスクレコーダーTorneとは、録画番組の転送などにも対応している。またiPhoneやAndroidのようにユーザが開発することはできないものの、Twitterやニコニコ動画用のアプリも用意されており、今後もSkypeなどアプリの幅は広がっていく予定である。

しかしこうしたゲーム以外の用途をどこまで真剣に捉えているのか、実際にVitaに触れると大いに疑問を感じずにはいられない。なにしろ、すべての下地となるはずのホーム画面がひどい出来である。せっかくの十字キーなどではなぜか操作できず、タッチ操作を受け付ける。アプリの切り替えや終了には、時にスワイプ操作が求められ、時にPSボタンを押すことが求められ、時に画面を「めくる」操作が求められる。要するに一貫性がない気ままなデザインであり、iOSやAndroidから学んだ汎用的なインタフェースとは到底思えない。

また、入出力まわりが相変わらず独自仕様で固まっているのも勿体無いところだ。ゲームやデータは独自のメモリカードを利用するし、充電ケーブルも独自形式である。たとえばこれがSDカードとUSBであったなら、他の端末との連携や、さまざまな拡張も想定できただろう。たとえばVitaへ音楽データを簡単に転送できれば、iPodがわりのアピールもできた。しかし現実には、PCに専用のコンテンツ転送ソフトをインストールして、Vitaとは専用ケーブルで繋ぐ手間が必要になる。ウォークマンでは専用ソフトなしに音楽データを転送できるし、iPhoneでは無線で転送できるし、Kindle Fireではクラウドストレージを利用することもできる。Vitaの作りはあまりに古臭い。こうした独自仕様はハッキング対策に必要な措置だったのかもしれないが、結果的にVitaの可能性を狭めてしまった。

エンターテイメントデバイスの夢

ソニーのストリンガーCEOは、ソニー・エリクソンを子会社化したあと、テレビ、PC、タブレット、スマートフォンという豊富な自社製品を連携させる「4スクリーン戦略」を強くアピールしている。ソニーが望めば、ここにゲーム機を加えた「5スクリーン」も可能だっただろう。そもそもソニーは、昔からPlayStationをただのゲーム機に留まらない、エンターテイメントデバイスと打ち出してきたはずだ。

Vitaはその夢を実現する絶好の機会だった。VAIOと無線で同期し、ウォークマン譲りの音楽機能を備え、TorneだけでなくBRAVIAとも映像を転送しあえるような、あるいはサイバーショットの写真を高精細ディスプレイで確認できるような、そんな端末が生まれる可能性もあった。だが結局、ソニーはまたゲーム専用機を作ってしまった。

現状、携帯用の高画質なゲーム専用機が他に存在しないことを考えれば、Vitaが一定の人気を獲得することは間違いない。しかしゲーム専用機に留まる限り、市場の急拡大は望めないだろう。そしてスマートフォンのゲームアプリやソーシャルゲーム、そしてまだ見ぬ製品やサービスなどが、今後ますますゲーム市場の切り崩しを進めることを思えば、Vitaが7年後の2018年まで携帯ゲーム市場を死守できるか、かなり疑わしいというのが私の見方である。

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