リアルの絆に組み込まれたネット社会

概要:2011年はインターネットのソーシャル化が進行した一年だった。それは同時にネットのリアル化であり、リアルとネットの統合が進んだということでもある。もはやインターネットは特別な場所ではなく、リアルな社会の一部でしかない。

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日本漢字能力検定協会が発表する「今年の漢字」は「絆」であった。「今年の漢字」は全国からの応募で決まるため、この一年の社会情勢全般を反映したものと言える。しかし「絆」という語は、今年のネットトレンドを総括するのにもぴったりである。

ネットのソーシャル化とリアル化

なぜ「絆」がネットトレンドを示しているのか。もちろん、ひとつにはFacebookやTwitterのようなソーシャルメディアが会員数を伸ばしていることが挙げられる。こうしたソーシャルメディアは単一サービスとして人気なだけでなく、ネット全体の基盤となりつつあり、「いいね」であったり、シェア機能であったり、友達のインポート機能であったりという形で、多くのウェブサイトと連携している。今やFacebookやTwitterの影響下にないウェブサイトはごくわずかだ。無機的であったGoogle検索でさえ、+1ボタンを備え、ソーシャル化に踏み出した。この一年は、インターネット全体が急速にソーシャル化された時期だったとも言えるだろう。

ソーシャル化とは、そこに人間関係を持ち込むということである。人間関係にはリアルなものも、バーチャルなものもある。しかし一度リアルになった人間関係はバーチャルに戻らない。ハンドルネームしか知らなかったバーチャルな仲間は、オフ会で顔を合わせると、それからはリアルな知人となる。かつてのパソコン通信や初期のインターネットでは、人間関係の多くがバーチャルに構成されていた。しかし今はFacebookやGoogleが私たちのリアル情報をどんどん引き出したおかげで、インターネット上の人間関係も次第にリアル化が進行している。

実名制のFacebookが急速に普及しつつあったとき、多くの人達がこれを「実名」と「匿名」の戦いであるかのように捉えた。しかし実際に起きていることは、リアルとネットの「統合」と「分断」の戦いである。Facebookのような実名のみの環境だけでなく、Twitterのように匿名が許される環境であっても、そこでリアルと結びついた人間関係が形成されつつあることに変わりはない。昔ほど気軽に情報発信ができなくなったという人は、実名であれ、匿名であれ、少なくないだろう。あなたが誰であるかを知る第三者がいれば、たとえ匿名であっても、あなたはインターネットにリアルな人間関係を持ち込んでいることになっているからだ。

スマートフォンとリア充

ネットのリアル化が進んだ背景に、去年からのヒット商品であるスマートフォンがある。一家で共有されることが多いPCと比べ、スマートフォンは完全に個人化された端末であり、位置情報や写真など個人と紐づけやすい情報を簡単に発信できるようになっている。iPadやAndroidタブレットも、本来は複数人での利用が想定されるべきだろうが、なぜかそうした機能を欠いている。端末が個人に属することになったため、私たちは今まで以上に個人に紐づいた情報を発信し、交流するようになった。それはTwitterがはじめ、iPhoneユーザーを中心に人気が集まったことからも伺える。

もちろん、インターネット利用者層の拡大も背景にあるだろう。たとえばリア充という語がネットで利用されるようになったのは、2005年以降と言われている[要出典]。リア充とは「リアル=実社会」で「充実している」人のことで、当初は大学生を指す言葉として使われていた。それまでのネット社会は実社会が充実していない人ばかりだった、というわけではないだろう。ただ、普通に生活をしている人が、普通にネットも利用するようになった、という意味はありそうだ。

ネット視点から見ると、ネットユーザーなのに普通の生活も送っている「リア充」ということになる。リアル視点から見れば、普通そうなのにネットにも詳しい「デジタルネイティブ」になる。たとえば初期のGREEはあからさまなSFC(慶應義塾大学・湘南藤沢キャンパス)コミュニティであった。2004年ごろの話で、ちょうど「リア充」のはしりだったかもしれない。

助け合う絆、煩わしい絆

スマートフォン、ソーシャルメディア、ユーザ層拡大、なにが原因でなにが結果なのかは判別しがたいが、いずれにせよインターネットのソーシャル化、リアル化は急速に進行した。それは良く言えば、インターネットにおいても人は孤独にならず、互いに支えあうコミュニティ・インフラが整ったということである。悪く言えば、わずらわしい人間関係がインターネットにももたらされたということである。そして良いことか悪いことかは分からないが、インターネットにおいてもリアルの人間性、人間関係が重要になったと言える。

いまのインターネットは現実社会となにも変わりがない。TwitterやFacebookでは、古くからのネット界の有名人が力を失い、「リアルの有名人」が多くのファンを集めている(「AKB48に一瞬でフォロワー数を抜かれるネットアイドルああ無残」と書いたmala氏の表現は秀逸である)。PV稼ぎに煽り記事を書くネットメディアは、売上を伸ばすために下世話な釣り広告を並べる週刊誌とそっくりだ。

だから、絆というのは、やはり今のインターネットを表すのにぴったりではないか。絆という、束縛やしがらみといった意味もある語が今年の漢字に選ばれたことには批判もある。しかし私たちは人間関係というのが、いつも有効に機能するのではなく、時に束縛やしがらみとなって悩みの種となることを知っている。いまのソーシャルメディアもまったく同じで、時に頼りになる関係であり、時に絶えがたい関係が私たちの周囲を覆っている。かつては「mixi疲れ」などと言われたものだが、今となってはなんとも呑気なものだ。人間関係は疲れるのであり、インターネットも疲れるものなのである。

考えられるアイデア:

  • リアルからもネットからも生まれる人間関係の疲労感には、解決策が強く求められているだろう。ネットで愛されるためのノウハウなどは今後ますます重要になりそうだ。
  • 殺伐としたディスコミュニケーション環境を現在のインターネットでいかに構築するかというのは、やり甲斐のあるテーマかもしれない。
  • ネットワークのバーチャル性が担保された、今の自分とはまったく切り離された仮想社会のニーズは高まりそうである。それはネットゲームがずっと担ってきた役割であり、SecondLifeが目指そうとしたものでもあり、出会い系アプリが不純にも満たそうとしているものでもある。
  • 世代によっては、もはやネットに特別なものがあるとか、バーチャルな人間関係を構築できるとかいったことを信じないかもしれない。彼らは淡々と今のネットに合わせた生活を送るのだろうか。あるいはネットから離れていくのだろうか。それとも新しいネットを考えるのだろうか。

関連情報:

写真:Joost J. Bakker

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