読めるユーザポリシーを作る
概要:長文で難解なユーザポリシーは、これまでサービス企業のやりたいことをユーザに押しつけるために機能していた。しかし炎上リスクを抱えるようになった今、サービス企業は分かりやすいユーザポリシーを書くことが求められる。

炎上するプライバシ問題
このところ、私たちのプライバシデータについて、企業の取り扱いかたをめぐるトラブルが相次いでいる。まずは幾つか事例を挙げよう:
- ミログ社のAppLogは、Androidスマートフォン用のアプリに同梱され、ユーザが使うアプリの情報などを収集することで、広告配信などに活用する。ミログ社はユーザからの承諾を得て情報を収集していると説明していたが、その案内が不十分であったために批判を受け、AppLog事業を停止するに至った。
- ソニーのゲーム用オンラインサービスPSNでは、ユーザのゲームの進行状況やハードディスクレコーダーTorneの録画傾向などが、誰からも参照できる状態にあることが問題視された。ソニーは謝罪し、利用規約を実情に沿うように改訂している。
- Carrier IQ社は米国製スマートフォンの多くに、ユーザの位置情報や入力情報を収集するソフトウェアを導入している。Carrier IQは得られた情報を通信キャリアや端末メーカーへ提供することで、通信インフラなどの改善に役立てると説明するが、収集される情報の質量が不透明であるため、多くの反発を招いた。
- アップルはiPhoneユーザの位置情報を、端末や同期したPC上で長期に保管していたことがセキュリティ研究者の指摘で明らかになった。アップルはこの問題は「バグ」であったと釈明し、アップデートを行った。
- GoogleのAndroidスマートフォンでは、Androidマーケットでのアプリ購入時、ユーザの住所などがアプリ開発者へ通知される場合があると発覚した。Googleは不具合と認め、謝罪した。
まだまだ他にもあるだろうが、ひとまずはこのあたりにしておこう。それにしても、この一年ほどのあいだに、このような問題が相次いだのはなぜだろうか。
スマートフォンとソーシャルメディア
ひとつには、スマートフォンの普及が挙げられる。スマートフォンでは、GPSによって位置情報を収集したり、電話帳やメールといったユーザ個人と深く紐づいた情報が保存されたりしている。スマートフォンでは多くのアプリがウェブサービスと連携しながら動作しているため、端末で収集・保存されたプライバシ関連情報が、端末の外へどのように発信されているかを把握するのはとても難しい。このため、利用者の期待と実態にギャップが生まれ、トラブルとなることがある。実際、上記の5事例のうち、4事例はスマートフォン関係である。
もうひとつには、ソーシャルメディアの普及により、サービス提供側のユーザを軽視した態度が炎上の対象になりやすくなったことが挙げられる。サービス側から言えば「炎上リスクの拡大」である。
これまではユーザ側からの批判があったとしても、サービス側は「どのようにデータを取り扱うかはユーザポリシーに明示してあるし、ユーザはそれに同意していたのだ」と言うようなことを主張することが多かった。たしかに、難解で長文なユーザポリシーに目を通せば、曖昧な表現で「私達はあなたのデータをいかようにも利用できる」というようなことが書いてあることは多い。規約自体にミスがあるソニーのような例はむしろ稀だ。
もっとも、そのようなユーザポリシーをユーザがちゃんと目を通しているかは疑わしい。スマートフォンの小さな画面では尚更、長文のポリシーなど読ないだろう。だからといって、規約やポリシーであらかじめ断っていれば、サービス側はなにをしても良いということにはならない。たとえ裁判に勝てたとしても、ユーザから反発を受け、炎上して企業価値が下がるようでは、それは負けである。ユーザが規約を読まないのであれば、読みやすい規約にしなければならないのだ。
難解なユーザポリシーはこれまでユーザを煙にまく煙幕として機能していたかもしれない。ただ、ソーシャルメディアが力を持つ今日では、あまり有効な策と言えなくなった。ソーシャルメディアの力を誰よりも知るFacebookが、何度かの失敗を経て、ポリシーの改訂をユーザと事前に協議するようになったことが象徴的だ。
勝手ポリシーという手段
難解で曖昧なユーザポリシーはこれからもしばらく蔓延を続けるだろう。私たちのデータが、私たちの意図しない形で流通し、意図しない用途で利用される事例は今後も続くに違いない。
ならばひとつのアイデアとして、私たち自身がユーザポリシーを簡略化していくというのはどうだろうか。サービスがどのように情報を収集し、利用するか、私たち自身が見極め、整理し、共有する、Wikiのようなシステムになるだろう。情報が分かりやすく整理されれば、ユーザはうっかり不適切なポリシーのサービスを利用することがなくなる。サービス企業にとってもあとになって「こんなひどいポリシーだと思わなかった!」と言われることがなくなるので、メリットがあるはずだ。
ポリシー情報をまとめる際は「どの情報を」「なんのために」「どう扱っているか」を軸に整理することが求められる。それぞれアイコンのように絵でまとめて、ユーザ登録の際にでも「このサービスではメールアドレスを広告に利用します」(メールのアイコンと、広告に繋がるアイコン)、「このアプリでは念のためにあなたの位置情報を永続的に取得しています」(地図のアイコンと、カレンダーに無限大と描かれたアイコン)という形で表示できればベストだ。
あるいは、こうしたデータポリシーと運用についても、なんらかの監査システムを設けるべきなのかもしれない。日本では個人情報の取り扱いがとても厳しい反面、個人情報保護法の範疇にない「プライバシー」データの取り扱いについてはあまり体系的になっていないのが実情である。炎上してからでは遅いのだが。
(この記事を書きあげたところで、Googleからサービス別に分かれていたユーザポリシーを統合するという発表があった。Googleにはサービス連携で広告精度を高めるという大目標がある。しかし、分かりやすいユーザポリシーを用意し、ユーザに知らせるという動きは、文中に挙げたFacebookの例にも通じるだろう)
考えられるアイデア:
- 文中にも挙げた、既存サービスのユーザポリシーをユーザ間で勝手に「翻訳」するシステム。アイコンなどにより、さまざまなポリシーのアウトラインを共通化し、ポリシー間の違いを明らかにできると良い。たとえば、ドコモとKDDIとソフトバンクのポリシーはどう違うか?
- ユーザポリシーの監査、コンサルティング業務。絵や動画を使って、ポリシーを簡潔に説明できるサービスの展開も方法も考えられる。
- いずれにせよ、企業のソーシャルメディア窓口は今後非常に重要なポジションになる。アウトソースすべきか、自社で対応するとしてどのような人材を当てるべきかは、大きな問題だ。
関連情報:
- Googleのポリシー改訂については同社の公式ブログに解説がある。新しいポリシーのページには、概要やFAQも掲載されている。
- PSNの問題は高木先生の記事が詳しい。
- Carrier IQの問題はWirelessWireNewsを参照。
写真:JD Hancock




